日本国内の小売市場は、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、百貨店、ドラッグストア、EC(電子商取引)など多様な業態で構成されています。
小売業は一般的に産業全体の変動性に比べて業績が安定的であるため、株式市場では「ディフェンシブ」と呼ばれています。
小売業の為替変動の影響
円高の影響
- 輸入コストの低下: 海外から商品を輸入する小売業(例: ファッション業界、家電量販店)は、仕入れ価格が低下し利益率が向上する可能性があります。消費者にとっても価格が下がるため購買意欲が高まり、販売増加が期待されます。
- 観光需要の減少: 円高は外国人観光客にとって日本を割高に感じさせるため、インバウンド消費が減少し、小売業にも悪影響を及ぼす可能性があります。
円安の影響
- 輸入コストの増加: 輸入依存度の高い小売業では、仕入れ価格が上昇し利益率が圧迫されます。特に食品や衣料品などでは顕著です。東京商工リサーチの調査では、「各種商品小売業」の100%が円安による経営へのマイナス影響を報告しています。
- インバウンド需要の増加: 円安は外国人観光客にとって日本の商品やサービスを割安に感じさせるため、小売業はインバウンド消費の活性化という恩恵を受ける場合があります。
- 価格転嫁の難しさ: 円安によるコスト上昇を販売価格に転嫁することが難しい場合、小売業者は収益圧迫に直面します。
業界の最近の傾向
東京商工リサーチの調査によると、「各種商品小売業」の100%が円安による経営へのマイナス影響を報告しています。
日本の小売業全体の売上を仮に140兆円(2023年の推定市場規模)と仮定し、上場企業の決算データや業界動向を加味すると、海外売上は主にグローバル企業によるもので、全体の5~10%程度(7兆~14兆円)と見積もられます。したがって、国内売上比率が90~95%、海外売上比率が5~10%が現実的な範囲と考えられます。
特に食品や衣料品など、輸入依存度の高い商品を扱う小売業者は大きな影響を受けます。
日本を代表する小売企業10社
ファーストリテイリング
- 概要: 「ユニクロ」を主力ブランドとする、世界的に有名なアパレル企業です。企画・生産・販売までを一貫して行うSPA(製造小売)モデルを採用しています。
- 特徴: 高品質で機能的なベーシックカジュアルウェアを、手頃な価格で提供しています。グローバル展開を積極的に推進し、海外売上高比率が高いです。EC事業も強化しており、オンラインとオフラインを融合した顧客体験を提供しています。
- https://www.fastretailing.com/jp/
セブン&アイ・ホールディングス
- 概要: コンビニエンスストア「セブン-イレブン」、スーパーマーケット「イトーヨーカドー」、百貨店「そごう・西武」などを展開する総合小売企業です。国内外に幅広い事業を持ち、多角的なポートフォリオが特徴です。
- 特徴: コンビニエンスストア事業で圧倒的なシェアを誇り、高い収益性を実現しています。グループ間のシナジー効果を追求し、総合力を活かした事業展開をしています。カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールがセブン&アイ・ホールディングスに対して買収を仕掛けており、セブン&アイが買収提案を拒否していますが、今後の展開が注目されています。
- https://www.7andi.com/
イオン
- 概要: 総合スーパー、ショッピングモール、ドラッグストア、金融サービスなど、幅広い事業を展開する大手流通グループです。国内外に多くの店舗を持ち、地域に密着した事業を展開しています。
- 特徴: 多様な業態を持つことで、顧客の幅広いニーズに対応しています。プライベートブランド「トップバリュ」の開発・販売を強化しています。近年では、デジタルシフトをすすめ、オンラインでのサービスを拡充しています。
- https://www.aeon.info/
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス
- 概要:「ドン・キホーテ」を主力とするディスカウントストアを運営をしています。国内外に店舗を展開し、独自のエンターテイメント性あふれる店舗が特徴です。
- 特徴:深夜営業や豊富な品揃えなど、独自の店舗戦略で集客力を高めています。海外展開を積極的に推進し、特にアジア地域での成長が著しいです。近年では、PBA(プライベートブランド・アライアンス)を強化しPB商品の拡充をすすめています。
- https://ppih.co.jp/
ニトリホールディングス
- 概要: 家具・インテリア用品の製造・販売を行う大手企業です。「お、ねだん以上。」のキャッチフレーズで、高品質・低価格な商品を提供しています。
- 特徴: 自社で企画・製造・販売までを行うことで、コストを抑え、高品質な商品を提供しています。全国に店舗を展開し、幅広い顧客層を獲得しています。海外展開も積極的に進めています。
- https://www.nitori.co.jp/
ZOZO
- 概要: ファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営しています。多様なブランドを取り扱い、独自のサービスを提供しています。
- 特徴: 多くの人気ブランドを取り扱い、ファッションECのリーディングカンパニーです。独自のサービス「ZOZOSUIT」や「ZOZOMAT」などを展開ししています。
- https://corp.zozo.com/
MonotaRO
- 概要: 工場用間接資材や工具などをインターネットで販売するBtoB(企業間取引)企業です。幅広い商品を取り扱い、迅速な配送サービスを提供しています。
- 特徴: 中小企業を中心に、幅広い顧客層を持っています。豊富な商品ラインナップと、迅速な配送サービスが強みを持っています。近年では、海外展開や、新規事業にも力を入れています。
- https://corp.monotaro.com/
ゼンショーホールディングス
- 概要: 外食チェーン「すき家」「ココス」「はま寿司」などを展開する大手外食企業です。多業態展開により、幅広い顧客ニーズに対応しています。
- 特徴: 多岐にわたる外食ブランドを持ち、幅広い顧客層に対応しています。徹底したコスト管理と効率的な店舗運営で、高い収益性を実現しています。
- https://www.zensho.co.jp/jp/
良品計画
- 概要: 「無印良品」ブランドで、衣料品、生活雑貨、食品などを展開しています。シンプルで機能的なデザインと、高品質な商品が特徴です。
- 特徴: シンプルで飽きのこないデザインと、環境に配慮した素材選びで、幅広い層から支持を得ています。国内外に多くの店舗を持ち、グローバルに事業を展開しています。近年では、食品や生活サービス事業も強化しています。
- https://www.ryohin-keikaku.jp/
マツキヨココカラ&カンパニー
- 概要: ドラッグストア「マツモトキヨシ」「ココカラファイン」などを運営する大手ドラッグストア企業です。医薬品、化粧品、日用品などを幅広く取り扱っています。
- 特徴: ドラッグストア業界で高いシェアを持ち、全国に店舗を展開しています。PB商品の開発・販売を強化し、差別化を図っています。近年では、調剤事業や、ヘルスケア事業も強化しています。
- https://www.matsukiyococokara.com/company/group/mk/
小売業セクターの5年のチャート推移
日本取引所グループの業種別 小売業セクターの5年チャートを見てみましょう。

2020年のコロナショックでは、他のセクターと同様に急落しました。
2020年後半には、各国政府や中央銀行による大規模な経済対策が実施され、市場は徐々に回復しました。また、巣ごもり需要の増加や、ECサイトを通じたオンライン販売の拡大などにより、一部の小売業者は業績を伸ばしました。
2022年にはロシアとウクライナの戦争の影響で、原油価格や食料品価格が上昇し、インフレが進みました。これにより、消費者の購買意欲が低下し、小売業の売上に影響が出ましたが、
業界の傾向の部分で書いたように、一部の企業は海外での売り上げを伸ばしてはいますが、いまだに国内売り上げの方が大きいセクターですので、他のセクターより、調整は短くなりました。
2024年から2025年までは、経済活動の正常化が進み、インバウンド需要が回復したことなどが、小売業セクターの業績を押し上げました。また、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進や、新たなビジネスモデルの導入なども、株価上昇に貢献しました。
まとめ
小売業は人件費が収益に大きく影響する労働集約型産業です。最低賃金の引き上げや人手不足による採用コスト増が続いており、特にパート・アルバイト依存度の高い企業では利益率が圧迫されがちです。2025年度の税制改正で「103万円の壁」見直しが議論されていますが、これが実現すれば働き手の増加で人手不足が緩和される可能性もあります。この動向を注視し、人件費管理に優れた企業を選ぶべきです。
2025年度の予想PER(株価収益率)を見ると、小売業は全産業より割高傾向にあるとされています(野村アセットマネジメントの分析)。
前日終値での配当利回は、
- ファーストリテイリング : 0.84%
- イオン: 1.02%
- ニトリホールディングス: 0.98%
- ZOZO: 2.16%
- 良品計画: 1.02%
- MonotaRO: 0.75%
となっており、小売業セクター全体的に利回りが低いので配当目的では、買うことができなくなってしまっています。
ですが国内売り上げが大きいセクターでもあるため、分散のためには入れておかねばならないセクターだと思います。高配当の銘柄を見つけたら決算や配当推移と財務などをチェックして
購入したいセクターだと思います。
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