商品
原油
中東は世界の原油供給の大きな部分を占めており、紛争が起きると供給不安から原油価格が上昇するケースがよく見られます。
- 第四次中東戦争(1973年): 1973年10月の戦争勃発後、OPEC(石油輸出国機構)が西側諸国への経済制裁として原油価格を引き上げたことで、オイルショックが発生。原油価格は短期間で約4倍に跳ね上がり、1バレル約3ドルから12ドル近くまで上昇しました。この時期、戦争そのものよりも、その後の供給制限が価格高騰の主因でした。
- 湾岸戦争(1990-1991年): イラクがクウェートに侵攻した1990年8月、原油価格は直前に約20ドルだったのが、開戦直後の10月には40ドルを超える高騰を見せました。その後、戦争が短期間で終結し供給が安定したため下落しましたが、紛争初期の不安定さが価格を押し上げました。
- 最近の例(2024年イラン・イスラエル緊張): 2024年10月、イランがイスラエルにミサイル攻撃を行った際も、ホルムズ海峡封鎖の懸念から原油価格が一時的に上昇。WTI原油価格は数日間で数%高騰しました。
金
戦争や地政学リスクが高まると、安全資産として金が買われる傾向があります。
- 第四次中東戦争時: 1973年の戦争後、金価格は上昇トレンドに入り、1970年代後半にかけて大きく値上がりしました。これはオイルショックによるインフレ懸念も影響しています。
- イラク戦争(2003年): 開戦前の不確実性から金価格は上昇し、開戦後も緩やかに上がり続けました。
株価が上昇する可能性のある企業
防衛関連企業
中東での紛争が拡大すると、防衛産業への需要が高まり、関連企業の株価が上昇する傾向があります。
- 湾岸戦争時: 米国の防衛大手ロッキード・マーチンやレイセオン(現RTX)の株価は、戦争に伴う軍事需要の増加を背景に堅調でした。特にミサイルや航空機の供給が期待されると株価が反応します。
- 2024年中東情勢緊迫時: イランとイスラエルの対立がエスカレートした2024年10月、ロッキード・マーチン(LMT)は3.6%上昇、ノースロップ・グラマン(NOC)は3%上昇し、いずれも過去最高値を更新。iShares米国航空宇宙・防衛ETFもこの時期に1.2%上昇し、年間で43%高を記録しました。
- 日本の例: 三菱重工業(7011)は防衛省向けに装備品を納入しており、北朝鮮ミサイル発射や中東情勢緊迫時に物色されることがあります。ただし、日本の防衛関連企業の収益依存度は米国ほど高くなく、株価上昇は一時的になりがちです。
エネルギー企業
原油価格の上昇は、石油・ガス関連企業の収益を押し上げます。
- 湾岸戦争時: エクソンモービル(XOM)などの大手エネルギー企業は、原油高を受けて株価が上昇する局面がありました。
- 2024年10月: 中東情勢の緊迫化で原油価格が上がった際、エクソンモービルは2.3%高を記録し、エネルギー株全体が買われました。
日本株と米国株との比較
米国では、エクソンモービルやシェブロンといったエネルギー株が、中東紛争時の原油高で明確に上昇する傾向があります(例: 2024年10月、エクソンが2.3%上昇)。これは米国が産油国であり、原油価格上昇が直接利益に結びつくためです。一方、日本企業は「買い手」側であるため、コスト増が利益を圧迫しやすく、株価上昇は限定的になりがちです。
海運企業
中東地域は世界の石油供給の要であり、特にホルムズ海峡やスエズ運河といった重要な海上輸送ルートが存在します。戦争や紛争が勃発すると、これらのルートが封鎖されたり、航行が危険になったりするリスクが高まります。その結果、船舶が迂回を余儀なくされ、航海距離が延びることで輸送コストが増加します。また、紛争によるリスクプレミアムが運賃に上乗せされることもあり、コンテナやタンカーの運賃が上昇する傾向があります。この運賃高騰は、海運企業の収益改善期待につながり、株価を押し上げる要因となり得ます。
最近では、2023年末から2024年にかけて紅海でのフーシ派による船舶攻撃が続き、主要海運企業がスエズ運河を避けてアフリカ迂回ルートを選択したことで運賃が上昇し、日本や海外の海運株が堅調に推移した例もあります。
ただし、必ずしも上がるとは限りません。戦争が長期化したり、世界経済全体が混乱に陥ったりすると、石油や物資の需要自体が減少する可能性があります。その場合、海運需要が落ち込み、株価にマイナスの影響を与えることも考えられます。また、地政学リスクの高まりで投資家がリスクオフ姿勢を取れば、株価全般が下落する中で海運株も巻き込まれるリスクがあります。
注意点と傾向
- 短期的な反応: 戦争勃発直後は不確実性から株価全般が下落しつつ、原油や防衛関連が上昇する「二極化」が見られます。例えば、S&P500は湾岸戦争時の1990年8月から10月にかけて17%下落しましたが、防衛株や原油価格は逆に上昇。
- 長期的な影響: 紛争が長期化するか、供給網に実質的な打撃がある場合(例: ホルムズ海峡封鎖)、原油価格や関連株の上昇が持続する可能性があります。一方、短期間で終結すれば、価格は速やかに落ち着く傾向があります。
- 市場全体への影響: 中東戦争が東西対立(例: 米国vsイラン)を深めると、貿易制裁や物価上昇が日本を含む他国経済に波及し、株価全般に下押し圧力がかかることもあります。
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